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労災保険とは?会社担当者が知るべき加入条件や基本手続きをわかりやすく解説

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目次

労災保険は、労働者が仕事中や通勤中にケガ等をしたとき、必要な給付をして労働者やその家族を守るための保険です。

会社の従業員がケガや病気をしたときに備えて、担当者としては、労災保険についてしっかりと理解を深めておくことが重要です。

そこで今回は、労災保険の意味や、担当者が押さえておくべき労災保険の基本的な手続き等について、人事経験が浅い方でも理解ができるよう、わかりやすく解説をしたいと思います。

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労災保険とは?目的や制度の内容


労災保険とは、正式名称を「労働者災害補償保険」といいます。

労働者が、仕事中や通勤中に起きた出来事を原因として、ケガや病気になったり、障害を負ってしまったり、あるいは死亡してしまった場合に、必要な保険給付を行うことで、労働者やその遺族を保護するための制度です。

また、労災保険は労働者の社会復帰の促進や、労働者の福祉の増進なども目的としています。

本来、仕事中や通勤中のケガ等については、使用者(会社)が責任を負うべきですが、会社に十分な支払い能力がないケースも考えられます。

そこで、国が会社に変わって、被災した労働者に対して必要な給付を行うのが労災保険制度なのです。

そのため、労働者を一人でも雇用している事業者は労災保険に加入することが法律で義務付けられており、労災保険料は全額、会社が負担しなければなりません。

また、ここでいう労働者というのは、正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなど、名称を問わず雇用されている人がすべて含まれます。

労災保険と雇用保険との違い

労働者がケガや病気になったときの公的な保険というと、雇用保険をイメージする人も多いと思います。

では、労災保険と雇用保険との違いは何なのでしょうか。

労災保険と雇用保険との大きな違いは主に次の3つです。

  • 適用範囲
  • 自己負担の有無
  • 保険料の負担者

労災保険は、業務中または通勤中の出来事を原因とするケガや病気等が補償の対象となっています。

これに対して、雇用保険の対象は仕事や通勤とは無関係のケガや病気等が対象です。

また、健康保険の場合は、原則として、医療費の3割を労働者が自己負担しなければなりませんが、労災保険の場合は自己負担なく給付を受けることができます。

保険料については、雇用保険の場合は労使が折半しますが、労災保険については全額が使用者(会社)の負担となります。


労災保険の加入条件


社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険の場合、一定の条件を充たした労働者のみ、加入することになります。

例えば、1週間の所定労働時間が正社員の4分の3未満のパートやアルバイト従業員等の場合、社会保険に加入する必要はありません。

ですが、労災保険については、労働時間や契約期間の長さなどに関係なく、適用対象となります。

そのため使用者は、正社員はもちろん、アルバイトやパート、契約社員など名称を問わず、すべての労働者を労災保険に加入させる義務があるのです。

また、適用事業所に雇用された労働者は自動で労災保険に加入することになるため、個別の加入手続きは必要ありません。

ただし、労災保険は労働者のための保険であるため、事業主や会社の役員等は原則として加入することはできません。

なぜなら、事業主や会社役員等は、使用者であって労働者にあたらないからです。

ただ、事務組合に加入の中小企業の事業主・役員の場合、労災保険に特別加入することができるケースがあります。

労災保険が適用される「労働災害(労災)」の意味

労災保険は、労働災害(労災)に適用される保険です。

そのため、会社の担当者としては、会社で起きた事故等について、労災の手続きをするべきかどうかを判断するためにも、まず労働災害の意味をしっかりと理解することが重要です。

労働災害は大きく次の2つの種類に分類され、いずれも労働基準監督署の決定により労働災害として認定されます。

  • 業務災害
  • 通勤災害

それぞれについて、わかりやすく解説をします。

業務災害の意味と条件

業務災害とは、労働者が業務上の事由によってケガや病気をしたり、障害を負ったり、死亡してしまうことをいいます。

「業務上の事由によって」というためには、主に次の2つの条件を充たすことが必要です。

  • 労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にあること(業務遂行性)
  • 労働者のケガや病気等と業務との間に因果関係があること(業務起因性)

休日に家族と旅行に行ってケガをした場合は、業務起因性がないため、業務災害とはいえません。

また、仕事中にお腹を壊したとしても、それが前日に自宅で食べた物が原因である場合には、業務との因果関係が認められないため、業務起因性がなく、業務災害にはあたりません。

因果関係とは、特定の業務が傷病等の原因だと一般的にいえることを意味します。

通勤災害の意味と範囲

通勤災害とは、通勤途中の事由によって、労働者がケガや病気などを負うことをいいます。

通勤に該当するのは、次の3つのケースです。

  • 住居と就業場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先の住居と帰省先住居との間の移動

合理的な経路と方法によらなければならず、経路を逸脱したり、移動を中断した場合には、通勤とは認められません。

ただ、通勤途中に最寄りの病院に立ち寄った場合など、経路の逸脱や移動の中断が、日常生活上必要であって、最小限といえる場合には通勤として認められるケースがあります。


労働災害が起きた場合の初期対応

会社で労働災害が起きた場合、会社の担当者は、労災保険について対応をしなければなりません。

労災保険について、会社がやるべき手続きはたくさんありますが、まず初期対応について解説をします。

被災した労働者に対する指示

労働者が業務中や通勤中にケガ等をした場合、労災保険給付の対象となります。

そのため、労働災害が発生したと連絡を受けた場合、会社は労働者に対して「病院で労働災害であることを伝えたうえで治療を受けてください」と指示します。

その方が、後の労災給付の受け取りがスムーズになるからです。

また、できればその際に、労災指定病院で治療を受けるよう指示してください。

労災指定病院とは、都道府県労働局から指定された医療機関のことをいいますが、労災指定病院であれば、治療費は病院から労働基準監督署に対して請求されるため、労働者は自己負担なしで治療を受けられます。

労災指定病院以外で治療を受ける場合は、いったん病院窓口で労働者が治療費全額を立替払いし、あとから労働基準監督署から返金を受けることになります。

新卒社員など、社会人経験が少ない方の場合、どこに労災指定病院があるか知らないという従業員もいる可能性があるので、事前にパンフレットなどで周知しておく方が効率的です。

労働基準監督署への報告

労働災害によって、労働者が1日でも休業をする場合、会社は管轄の労働基準監督署に対して、「労働者死傷病報告」をしなければなりません。

この報告は、労災保険適用の有無にかかわらず、必要となるので注意しましょう。

報告の提出期限は、労働者の休業が4日未満か、4日以上かによって異なります。

休業が4日未満の場合は、4半期ごとに報告をし、4日以上の場合は労働災害発生後、遅滞なく報告しなければなりません。

「労働者死傷病報告」については、厚労省のHPからダウンロードすることが可能です。

4日未満の場合は労働者死傷病報告(様式第24号)、4日以上の場合は労働者死傷病報告(様式第23号)を使用します。

労災保険の基本的な手続き


労災保険の請求手続き等は、基本的に被災した労働者自身が行います。

ただし、労災の申請については、「災害の原因及び発生状況」等の項目について、事業主(会社)の証明が必要となっています。

そのため、労働者から申請について対応を求められたり、手続きについて相談されることがあるでしょう。

労働者に代わって会社が労災保険の申請手続きを行うケースもあります。

そこで下記では、会社の担当者が知っておくべき、労災保険に関する基本的な手続きを解説します。

労災保険の療養補償給付の請求手続き

労災指定病院で現物給付を受ける場合、病院の窓口で下記の書類を提出します。

  • 業務災害の場合は「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」
  • 通勤災害の場合は「療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用(様式第16号の3)」

現物給付とは、病院から診察や治療、手術など医療サービスを自己負担なく受けられることをいいます。

また、上記の書類については、厚労省のHPからダウンロードするか、最寄りの労働基準監督署でもらうことができます。

これらの書類については、「災害の原因及び発生状況」などについて、事業主(会社)の証明が必要となり、労働者から対応を求められた場合、会社はこれに応じなければなりません。

現物給付が受けられる立替払いをした場合の請求手続き

労災保険で現物給付が受けられないケースがあります。

例えば、労災指定病院以外で治療等を受けた場合、海外の医療機関で受診をした場合です。

また、労災保険の現物給付は、治療の遂行に必要な範囲に限られているため、一部の医療サービスも現物給付の対象外となっています。

例えば、コルセットや松葉づえ等の治療用装具の支給、整骨院や鍼灸院での施術などです。

これら、現物給付が受けられない場合は、被災した労働者自身がいったん全額を窓口で負担し、あとから労働基準監督署にかかった費用を請求することになります。

請求後、労働基準監督署で労災保険の対象かどうかの審査が行われるため、労働者に治療費等が支給されるまでには1か月程度かかります。

必要となる書類は次の通りです。

  • 業務災害の場合は「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(様式第7号(1))」
  • 通勤災害の場合は「療養給付たる療養の費用請求書 通勤災害用(様式第16号の5)」

届出をする際は、立替払いをした領収書の原本を添付資料として併せて提出します。

なお、請求期限は窓口で費用を負担した日から2年以内となっており、それ以降は請求できなくなってしまうので注意しましょう。

労働災害に加害者(第三者)がいる場合

交通事故など、労働災害に加害者(第三者)がいるケースがあります。

これを、「第三者行為災害」といいます。

第三者行為災害の場合、被災した労働者には、加害者に対する損害賠償請求権と、労災保険の請求権という二つの権利が発生します。

損害賠償請求とは、不法行為等によって他者から損害を受けた人が、加害者に対して補償を求めることをいいます。

二つの権利が重複すると、被災した労働者は二重取りになってしまう可能性があるため、第三者行為災害が発生した場合、事業所を管轄する労基署に「第三者行為災害届」を提出し、二つの請求が重複しないよう調整を行う必要があるのです。

具体的には、損害賠償と労災保険の補償内容が同じ項目については、労災保険の支給から控除されることとなります。

第三者行為災害届の提出は、労災保険の申請と同時、又は先だって行います。

このとき、加害者である第三者と示談をする場合は注意が必要です。

示談によって、被災した労働者が示談額以外の損害賠償請求権を放棄した場合、示談成立以後の労災保険の給付が行われなくなってしまう可能性があるためです。

被災労働者が不利益を被らないよう、示談をする際は、必ず事前に労基署と相談をするように会社はアドバイスをしましょう。

労働災害による休業で労働者の収入が減った場合

労働災害による休業によって、労働者の収入が減った場合、労災保険から「休業補償給付」が支給されます。

支給期間は、支給日から起算して通算で最長1年6か月までです。

休業補償給付は、労働者の休業後、3日間の待期期間を除き、4日目から支給されます。

この3日間の待期期間ですが、年次有給休暇や会社の公休日も待期期間に含まれます。

また、健康保険の傷病手当金と異なり、連続している必要はなく、通算で3日間休業すれば待機期間は満了となります。

業務災害によってケガ等をした当日の扱いについてですが、病院に行くために早退をした場合は、当日も3日間の待期期間に含まれます。

一方で、残業中や休日出勤中にケガ等をした場合は、翌日から3日間を計算します。

例えば金曜日の所定労働時間内にケガをして会社を早退し、その後休業した場合、金曜日、土曜日、日曜日の3日間は労災保険の支給はなく、月曜日から支給されることになります。

労働者が業務災害によって休業する場合、事業主(会社)は、この3日間の待期期間について、平均賃金の60%の額を休業補償として支払わなくてはなりません。

この休業補償は業務災害の場合にだけ必要となるもので、労働者の休業が通勤災害による場合は必要ありません。

労働災害により労働者に障害が残った場合や死亡してしまった場合

労働災害によって労働者に障害が残ってしまった場合、労災保険から「障害補償給付」を受けることができます。

障害補償給付は、障害の程度によって、内容が異なります。

障害等級1~7級に該当すると障害補償年金、8から14級に該当すると障害補償一時金が支給されます。

障害補償給付の請求は、管轄の労基署に対して、障害補償給付支給請求書(業務災害の場合)、又は障害給付支給請求書(通勤災害の場合)を提出します。

また、労働災害により労働者が死亡してしまった場合は、遺族に対して労災保険から「遺族補償年金」「遺族特別支給金」「遺族特別年金」が支給されます。

必要となる書類は、遺族補償年金支給請求書(業務災害の場合)、又は遺族年金支給申請書(通勤災害の場合)です。

このほかにも、申請を行うことで、労災保険から葬祭料の給付を受けることも可能です。

葬祭を執り行う人がおらず、社葬になった場合には、葬祭料は会社が給付されます。


労災給付額の基礎となる給付基礎日額の計算方法

労災保険から休業補償給付や障害補償給付、遺族補償給付などの給付を受けるときに、給付額の計算の基礎となるのが、給付基礎日額です。

例えば、休業補償給付は、休業1日あたり給付基礎日額の60%が支給され、障害補償年金は給付基礎日額の313日~131日分が障害の程度に応じて支給されます。

給付基礎日額は、被災日または疾病が確定した日の直近3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割って算出をします。

例えば、月の給料が20万円の従業員が、10月に事故を起こした場合、20万円×3か月÷92日(7月は31日、8月は31日、9月は30日)で給付基礎日額は6,522円(小数点切り上げ)となります。

ただし、パートやアルバイトなど、日給者や時給者の場合には、最低補償額が用意されており、実際に計算した金額がそれより下回る場合は最低補償額が適用されます。


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まとめ

労働災害は頻繁に起こることではないので、手続きなどに慣れていない担当者の方は多いと思います。

ですが、会社の労災保険の手続きが遅れてしまうと、労働者に不利益が生じてしまう可能性があります。

会社の担当者や経営者の方は、労災保険について、基本的な流れなどをしっかり把握し、もし労働災害が発生してしまった場合は、スムーズに手続きを行えるように準備しておきましょう。

労災保険について、ご質問やご相談がありましたら、是非SATO社会保険労務士法人へお問合せ下さい。


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