育休中に配偶者の扶養に入れる?配偶者控除・扶養手当の手続きを解説します
厚生労働省が発表した「令和3年版 厚生労働白書」によりますと、共働き世帯は約6割を占めています。
共働きが当たり前となり、配偶者の扶養に入らずに働いている女性従業員が多くいることでしょう。
しかし、そんな従業員でも扶養に入れる場合があることをご存じでしょうか。
産休・育休中は、基本的には会社からの給料がないため、年収が減ってしまいます。共働き世帯でも、年収によっては配偶者の扶養に入れる場合があるのです。
今回は、育休中でも配偶者の扶養に入ることのできる条件や手続きについて、わかりやすく解説していきます。
従業員の産休や育休について、「もう少し詳しく聞いてみたい」「社労士に直接相談したい」という方は、ぜひSATO社会保険労務士法人にご相談ください。
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「税法上の扶養」と「社会保険の扶養」について
“扶養”とは、家計を支える人が、配偶者や両親といった収入の少ない親族を、経済的に支えることを意味します。
育休中は、対象となる従業員が会社に属しているため、収入は減ってしまうが扶養に入ることはできないと思われがちです。
しかし、“扶養”には「税法上の扶養」と「社会保険の扶養」という2種類があり、育休中の従業員は「社会保険の扶養」に入ることができなくでも、「税法上の扶養」には入ることができる場合があります。
「税法上の扶養」とは
- 家計を支える納税者の扶養に入ることで、「扶養控除」や「配偶者控除」が適用となり、納税者の税金負担(所得税・住民税)が軽減されること
「社会保険の扶養」とは
- 家計を支える人の勤務先の健康保険や厚生年金の“被扶養者”になること
元々扶養の範囲内で働いている従業員は、育休中でも税法上・社会保険の扶養の両方が適用となります。
しかし、フルタイムで働く正社員やパート従業員については、税法上の扶養のみが適用となることとなります。
育休中に「税法上の扶養」が適用される場合
育休中は基本的に、会社からの給料がありません。
しかし育休に入る前、年の途中までは仕事をしていたため、一定の収入がある方もいらっしゃいます。
それでは、育休中の収入がいくらまでなら、扶養に入ることができるのでしょうか。
育休中でも「税法上の扶養」が適用される場合の条件について、詳しくみてみましょう。
従業員の合計所得金額が48万円以下の場合は“配偶者控除”の対象
配偶者控除とは、家計を支える納税者の配偶者(=今回では育休中の従業員)の年間合計所得金額が一定以下の場合に、納税者本人(=今回は従業員の夫)が一定の金額の所得控除が受けられる制度のことです。
配偶者控除には、一定の条件があります。
配偶者控除の対象は、その年の12月31日時点で、次の4つの条件をすべて満たしている人です。
- 民法の規定による配偶者であること(婚姻関係のない内縁関係の配偶者は該当しません。)
- 夫婦で生計を一にしていること(別居している場合でも、生計を一にしていれば対象)
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は、給与収入が103万円以下)
- 青色申告者の事業専従者として、年間一度も給与の支払を受けていないこと。または白色申告者の事業専従者でないこと。
出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」
ただし、家計を支える納税者本人のその年の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、配偶者控除は適用されませんので覚えておきましょう。
※『所得』と『年収(給与収入)』の違いについて
配偶者控除について説明すると、必ず出てくるのが『所得』や『年収』というキーワードです。
扶養対象となるか否かについて、非常に大切なワードとなるので改めて説明しておきます。
まず『年収(給与収入)』とは、社会保険料や源泉所得税、その他の控除(住民税や積立金など)が引かれる前の、会社から支払われた1年間の総支給額(額面の金額)のことです。
次に『所得』とは、年収から給与所得控除(給与収入にあわせて一律で控除されるもの)を引いた金額のことです。
“配偶者控除”の対象外となっても“配偶者特別控除”の対象となる可能性も
育休中の従業員に48万円を超える年間合計所得金額があり、配偶者控除の適用が対象外となった場合でも、育休中の従業員の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる制度があります。
これを配偶者特別控除といいます。
配偶者特別控除にも一定の条件があり、次のすべての条件を満たした場合に適用となります。
- 家計を支える納税者本人のその年の合計所得金額が1,000万円以下であること
- 民法の規定による配偶者であること(婚姻関係のない内縁関係の配偶者は該当しません。)
- 納税者と控除を受ける人が生計を一にしていること
- その年に青色申告者の事業専従者として、給与の支払を受けていないこと。または白色申告者の事業専従者でないこと。
- 配偶者の年間の合計所得金額が48万円超133万円以下であること
- 配偶者が、すでに配偶者特別控除を適用していないこと
- 配偶者が、源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除きます。)
出典:国税庁「No.1195 配偶者特別控除」
育休中の各種手当は所得に含まれる?
産休中や育休中に受け取ることができる各種手当(出産手当金・出産育児一時金・育児休業給付金)は、非課税で、所得金額には含まれません。
各種手当はまとまった金額となるため、不安に思う従業員もいるかと思います。しかし、各種手当を受け取っても年間の所得金額は増えませんので、育休中の従業員へ、配偶者控除等の対象となるか一度確認してみることを勧めてみてはいかがでしょうか。
##配偶者控除の手続きについて
育休中の従業員が配偶者控除や配偶者特別控除の適用対象となった場合は、年末調整や確定申告にて申請をする必要があります。
申請には、必要書類を期限内に提出することが重要となりますが、どのような手続きでどのような必要書類が要るのでしょうか。
家計を支える納税者が会社員の場合
配偶者控除等の控除を受ける納税者(=今回では育休中の従業員の夫)が、勤務先に以下2点の書類を提出する必要があります。
- 扶養控除申請書
- 給与所得者の配偶者控除等申請書
書類には、配偶者(=今回では育休中の従業員)のマイナンバーや年間の合計所得金額の見積額等を記載する必要があります。
国税庁の記入見本を参考に、記入漏れの無いように申請する準備が必要である旨を従業員へ伝えてあげましょう。
家計を支える納税者が自営業の場合
自営業の人や会社での年末調整に間に合わなかった場合は、確定申告をすることで配偶者控除や配偶者特別控除を受けることが可能です。
確定申告をする場合は、従業員が“配偶者控除”か“配偶者特別控除”のどちらに該当するか、控除額はいくらになるかを確認する必要があります。
確認した控除額、配偶者の氏名や生年月日、マイナンバーの情報も必要になります。
国税庁の手引きを参考に、正しく記載する必要がありますので、注意するように従業員へ伝えましょう。
扶養手当とは?
扶養手当とは、法律で規定されたものではなく、企業の福利厚生の一環として支給されるお金の一つです。
企業によって、支給条件や支給上限額等は異なり、扶養手当の無い企業もあります。
自社の規定や手続き方法をしっかりと確認し、従業員からの問い合わせに備えましょう。
まとめ
今回詳しく解説してきた「配偶者控除」や「配偶者特別控除」について、人事担当者が制度を正しく理解することは大切です。
そのうえで、育休中の収入減少に不安を抱く従業員に、制度利用を促しましょう。
従業員が配偶者の税法上の扶養に入ることで、支払う税金が少なくなり、結果として手元にお金を残しておくことが可能となります。
また扶養控除は、育休から遡って5年以内であれば確定申告にて申請することも可能です。過去に育休を取得した従業員との雑談の中にでも、配偶者控除の話を盛り込んでみてはいかがでしょうか。
従業員の産休や育休について、「もっと詳しく知りたい」「社労士に相談したいことがある」という方は、ぜひSATO社会保険労務士法人にご相談ください。