育児休業とは?実務担当者が押さえておくべきポイントを解説します
少子高齢化の進む日本では、出産や育児による労働者の離職を防ぎ、男女ともに仕事と育児を両立できる社会の実現が重要視されています。
企業で働く女性の育児休業取得者の割合は、80%を超えている一方で、男性の育児休業取得者の割合は、13.97%と低い水準にとどまっています。
2021年6月に改正育児・介護休業法が成立し、2022年4月から順次施行されたことで、今後はより一層、男女問わず育児休業を取得する従業員が増えることでしょう。
今回は、従業員が取得することが当たり前となるであろう育児休業について、制度の概要や期間、育児休業給付金の申請方法、育児休業に関して人事が行う手続き等について、わかりやすく解説していきます。
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育児休業制度とは?
育児休業制度とは、育児・介護休業法において定められている休業制度で、『労働者が原則としてその1歳に満たない子を養育するためにする休業』と定義されています。
つまり、育児休業とは1歳未満の子どもを育てる従業員が、法律に基づいて休業できる制度です。
また育児休業には、男性社員が育児休業を取得して家事や育児に積極的に参加できるように制定された「産後パパ育休」や、夫婦が協力して育児休業を取得することで休業期間を延長することができる「パパ・ママ育休プラス」という制度があります。この2つの制度についても、詳しく解説していきます。
育児休業の対象条件について
育児休業は、男女・正社員・パート(扶養内含む)を問わず、所定の条件を満たしている従業員が、会社に申し出ることで取得することができます。
従業員から申し出があった場合、以下の条件を満たしているか確認しましょう。
〈対象条件〉
- 有期雇用労働者で、対象の子が1歳6か月になるまでに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)が満了しないこと
- 日々雇用される労働者でないこと
- 労使協定の締結により対象外となる労働者に該当していないこと
※労使協定の締結により対象外にできる労働者・・・雇用された期間が1年未満の労働者/週の所定労働日数が2日以下の労働者/申し出から1年以内に雇用関係が終了する労働者
育児休業の取得期間について
育児・介護休業法において、“原則として子どもが1歳になるまでの間、育児休業を取得することができる”と定められています。
しかし、出産をした女性と男性とでは開始時期が異なります。
女性の場合、産後8週間の産後休業が終わった翌日から、対象となる子が1歳に達する(1歳の誕生日の前日)まで取得することができます。
男性の場合は、「産後パパ育休」を利用して、対象の子が産まれてから8週間以内に最長4週間まで取得することができます。そしてさらに、産後8週間後の育児休業についても、対象となる子が1歳に達する(1歳の誕生日の前日)まで取得することができます。
また、一定の要件を満たし「パパ・ママ育休プラス」を利用した場合には、育児休業期間は1歳2か月に達するまで延長することができます。
上記はあくまで、法定の育児休業の取得期間について述べています。
法定とは別に、育児休暇制度を設けている会社もあり、会社の制度が法定制度を上回る場合もあります。
実務担当者は法定規定についてはもちろん、自社の休暇制度についてもきちんと確認しておきましょう。
育児休業の取得回数について
育児休業は、対象の子が1歳になるまでの間に、男女ともに原則2回まで分割して取得することができます。
分割取得をすることで、夫婦が育児休業を交代することもできます。
さらに、女性の職場復帰のタイミングに合わせて男性が育児休業を取得したり、夫婦の業務や会社の状況を考慮しながら休業したりと、柔軟な働き方が実現できます。
また、保育園に入所できなかった場合などの1歳以降の育児休業については、1歳までの育児休業とは別に、1回ずつ取得することができます。
「産後パパ育休」について
「産後パパ育休」とは「出生時育児休業」とも言い、対象の子が生まれてから8週間以内の期間内に通算4週間まで育児休業を取得できる制度です。
本制度は、男性の育児休業取得を促す制度の一つです。
そのため、職場内において制度内容の理解は必要不可欠ですので、実務担当者はポイントを押さえて制度内容を正しく理解しておきましょう。
ポイント① 2回に分割して取得ができる
産後パパ育休は、対象の子が生まれてから8週間以内であれば、期間内に2回まで分割して育児休業を取得することができます。(もちろん、必ず2回に分割する必要はなく、1回で1週間だけ、または4週間まとめて取得することができます。)
ただし、2回に分割して取得する場合には、2回分まとめての申出が必要となります。
なお、まとめて申し出なかった場合には、会社は後の申し出を拒むことができます。
従業員から産後パパ育休取得の申出があった場合は、取得回数の確認が必要です。
ポイント② 産後パパ育休には申出期限があります
産後パパ育休を従業員が取得する際には、原則として休業の2週間前までに事前に申出てもらう必要があります。
これより申出が遅れた場合は、会社は一定の範囲(従業員が休業を開始しようとする日以後申出の日の翌日から起算して2週間を経過する日までの間)で休業を開始する日を指定することができます。
ただし、育児・介護休業法で義務づけられている雇用環境の整備措置を上回る、次の1〜3の全ての措置を講じることを労使協定で定めている場合は、申出期限を1か月前までとすることができます。
- 以下 a~e のうち、2つ以上の措置を講じること
a 自社の従業員に対する育児休業に関する研修の実施
b 育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
c 自社の従業員の育児休業取得事例の収集・提供
d 自社の従業員へ育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
e 育児休業申出をした従業員の、育児休業の取得が円滑に行われるようにするための業務の配分または人員の配置に係る必要な措置 - 育児休業の取得に関する定量的な目標を設定し、育児休業の取得の促進に関する方針を周知すること
- 育児休業申出に係る当該従業員の意向を確認するための措置を講じた上で、その意向を把握するための取組を行うこと
また、出産予定日よりも早い出産の場合、休業開始日を繰り上げることを希望されることがあります。
その場合、変更後の休業開始日の1週間前までに変更の申出がなされれば、繰り上げて休業を開始することができます。
ポイント③ 産後パパ育休中に一部就労することができます
産後パパ育休中は、労使協定を締結している場合に限り、従業員と会社間の合意した範囲内で就労することができます。
ただし、就業可能日数には上限があります。
〈就業可能日数の上限〉
- 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
- 休業開始・終了予定日を就業日とする場合は、当該日の所定労働時間数未満
産後パパ育休を含む育児休業は労働者の権利であり、休業中は就業しないことが原則です。
そのため、会社は休業中の仕事を認めないこともでき、その場合は労使協定を締結する必要はありません。
また、産後パパ育休期間中の就労について、会社から従業員に対して一方的に求めることや、従業員の意に反するような取扱いは禁止されていますので、注意しましょう。
産後パパ育休の対象条件について
産後パパ育休を取得することができるのは、原則として出生後8週間以内の子を養育する産後休業をしていない男女労働者とされています。
対象者は主に男性従業員となりますが、養子縁組をした場合などは女性従業員も対象となります。
一部の有期雇用者等、対象外となる従業員の条件もありますので、確認してみましょう。
〈対象外となる従業員〉
- 対象となる子の出生日または出産予定日のいずれかの遅い方から起算して、8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了し更新されないことが明らかな有期雇用者
- 日々雇用される者
- 労使協定の締結により対象外となる従業員
・入社1年未満の従業員
・休業の申出日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
休業中の給付金について
雇用保険の被保険者が産後パパ育休を取得し、一定の条件を満たした場合、雇用保険から「出生時育児休業給付金」が支給されます。支給条件や支給申請期間、支給額についても解説します。
〈支給条件〉
- 対象となる子の出生日から8週間を経過する日の翌日までの期間内に、4週間(28日)以内の期間を定めて、当該子を養育するための産後パパ育休を取得した雇用保険の被保険者であること
- 産後パパ育休開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が通算12か月以上あること
(11日以上ない場合は、就業している時間数が80時間以上の完全月となります。) - 産後パパ育休期間中に仕事をする場合、就業日数が一定の水準以内であること
(産後パパ育休を28日間(最大取得日数)取得する場合は10日以内となり、これより短い場合はそれに比例した日数または時間数以内となります。) - 【有期雇用者の追加条件】対象となる子の出生日から8週間を経過する日の翌日から、6か月を経過する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
産後パパ育休は分割取得できる回数が2回までであり、最大4週間=28日が上限となる休業です。
そのため、次のケースは「出生時育児休業給付金」の対象外となりますので、注意が必要です。
- 出生時育児休業を3回に分けて取得した場合の3回目の休業
- 出生時育児休業を、28日間を超えて取得した場合の28日超過分の休業
ただし上記2点のケースについて、被保険者と会社との間で育児休業に振り替える旨に合意した場合は、育児休業給付金として支給申請することができます。
実務担当者は、このような対応も可能であることを覚えておきましょう。
〈支給申請期間〉
「出生時育児休業給付金」の申請には期限があり、対象となる子の出生日(出産予定日前に子が出生した場合は出産予定日)から8週間を経過する日の翌日から申請可能となり、当該日から2か月を経過する日の属する月の末日までに「育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書」を提出する必要があります。
提出期限を過ぎてしまうと給付金が支給されなくなってしまいますので、提出期限はしっかりと守りましょう。
なお、産後パパ育休を2回に分けて取得していても、支給申請は1回にまとめて行いますので覚えておきましょう。
〈支給額〉
「出生時育児休業給付金」の支給額は、育児休業給付金と同様の計算式で算出されます。
支 給 額 = 休業開始時賃金日額※ × 休業期間の日数(28日が上限)× 67%
ただし、産後パパ育休期間中の就労に対して会社から賃金が支払われた場合、賃金額に応じて支給額が調整されるので覚えておきましょう。
また、出生時育児休業給付金が支給された日数は、育児休業給付の給付率67%の上限日数である180日に通算されますので、注意しましょう。
「パパ・ママ育休プラス」について
パパ・ママ育休プラスとは、父母ともに育児休業を取得して一定の条件を満たした場合、原則として子どもが1歳になるまでの休業可能期間を、1歳2か月に達するまで延長できる制度です。
ただし、育児休業取得可能期間については注意が必要で、1人当たりの育児休業取得可能最大日数(産後休業含め)が1年間であることは変わりません。
そのため、1人が連続して1歳2か月まで延長することができるものではないという点は理解しておきましょう。
「パパ・ママ育休プラス」の取得条件について
- 配偶者(母親)が、対象となる子が1歳に達するまでに育児休業を取得していること
- 父親の育児休業開始予定日が、対象となる子の1歳の誕生日以前であること
- 父親の育児休業開始予定日は、母親の育児休業の初日以降であること
以上の取得条件を満たしている場合には、パパ・ママ育休プラスを利用することができます。
従業員がパパ・ママ育休プラスを利用している際には、実務担当者は制度利用者の育児休業終了日の把握・管理を正しく行いましょう。
育児休業に関する実務担当者が行う申請手続きについて
実務担当者が行うべき育児休業に関する手続きは、申請書類の作成以外にも、期日管理や回数管理、従業員への制度説明など非常に多岐にわたります。
ここでは、実務担当者が行う申請手続きについて解説していきます。
育児休業給付金の手続き
育児休業期間中の従業員は、基本的には会社からの給料はなく、加入している雇用保険から育児休業給付金を受け取ります。
そのため、育児休業給付金は育児休業を取っている従業員にとって、生活をするうえでとても重要な収入源となります。
実務担当者は、給付金の支給条件や申請方法について理解し、スムーズに手続きが行えるよう準備しなくてはいけません。
〈支給条件〉
従業員が育児休業給付金を受給するには、休業前および休業中において、以下の支給条件を満たす必要があります。
- 1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること
- 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上または就業した時間数が80時間以上ある完全月が12か月以上あること
- 休業中に就労した場合、就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること
- 休業中に就労した場合、賃金月額(休業開始前に受け取っていた賃金)の80%以上の金額が支払われていないこと
- 有期雇用労働者の場合、対象の子が1歳6か月になるまでに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)が満了しないこと
〈支給額〉
育児休業給付金は2か月ごとに決められた金額が支給されます。
そして1か月の支給額は、以下の計算式で算出されます。
支 給 額 =休業開始時賃金日額 × 支給日数×67%
(育児休業開始から181日目以降は67%→50%)
支給日数は、原則30日間です。
休業終了日の属する支給単位期間は、休業終了日までの日数となります。
また、支給単位期間の途中で離職した場合、離職日の属する支給単位期間の前の支給単位期間までが支給対象となります。
従業員から問い合わせがあった際、すぐに回答できるよう覚えておきましょう。
〈申請手続き〉
育児休業給付金の申請手続きは、原則的には会社(雇用主)が行います。
受給者となる従業員が、直接ハローワークに申請することもできますが、支給申請手続きの前段階となる育児休業給付受給資格の確認手続きは会社で行わなければなりません。
受給資格の確認手続きと初回の育児休業給付金の支給申請は同時に行うことができますので、支給申請手続きは会社が行うとスムーズです。
□初回の申請手続き
必要書類 | 雇用保険被保険者休業開始賃金月額証明書 育児休業給付受給資格確認票 育児休業給付申請書(初回のみ) |
目的 | 育児休業を取得する |
提出先 | 所轄のハローワーク |
提出期限 | 育児休業開始日から4か月を経過する日の属する月の末日 |
添付書類 | 賃金台帳、出勤簿などの賃金額や支払い状況を証明する書類 母子健康手帳などの育児の事実を確認できる書類の写し |
初回の申請提出期限は、育児休業開始日から4か月を経過する日の属する月の末日までです。提出期限はしっかりと守りましょう。
□2回目以降の手続き
必要書類 | 育児休業給付金給付申請書(ハローワークが交付) |
目的 | 2回目以降の育児休業を取得する |
提出先 | 所轄のハローワーク |
提出期限 | 下記に記載 |
添付書類 | 賃金台帳、出勤簿などの |
2回目以降の提出期限は、ハローワークから交付される「育児休業給付次回支給申請日指定通知書」に印字されています。
2か月に一回、申請期限に間に合うよう期日管理をして申請しましょう。
育児休業中における社会保険料免除の手続き
育児休業期間中でも、従業員は会社に在職しているので、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入している状態となります。
しかし、育児休業をする人への経済的支援策の一つとして、育児休業中の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)を免除する制度があります。
本制度は、会社(実務担当者)が年金事務所へ届出を行うことで、従業員=被保険者本人負担分および会社負担分の両方が免除となりますので、従業員から育児休業を取得する申し出があった際には必ず手続きを行いましょう。
ただし、本制度にも免除条件があります。
下記の免除条件を確認し、「産後パパ育休」等で短期の育児休業を取得している従業員が免除対象となるかについては、特に気を付けて判断しましょう。
〈月額の社会保険料免除条件〉
- 育児休業を開始した日の属する月から終了する日の翌日が属する月の前月まで
(=月の末日時点で育児休業を取得していると、その月の保険料が免除) - 育児休業を開始した日の属する月内に、14日以上の育児休業を取得した場合
(=月の末日時点で育児休業を取得していなくても、同月中に14日以上の育児休業を取得していれば、その月の保険料が免除)
※注意:14日以上は連続取得とは限らず、同月中であれば通算することができます。
しかし、開始日と終了予定日の翌日が同月に属する場合のみ適用となるので、前月以前から取得している育児休業については、通算対象とはなりません。
〈賞与の社会保険料免除条件〉
- 当該賞与月の末日を含んで、育児休業の期間が1か月(暦月で計算)を超える場合
免除条件を満たした従業員が社会保険料の免除を受けても、健康保険の給付は通常通り受けることができます。
また、免除期間分も社会保険料を払ったとみなされ、将来の年金額に反映されます。
〈申請手続き〉
育児休業中の社会保険料免除の手続きについては、会社(実務担当者)が年金事務所へ届出を行ないます。
会社は、育児休業取得対象者が育児休業を取得したとき、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届(以下「育児休業等取得者申出書」)」を年金事務所または事務センターへ提出します。
年金事務所または事務センターへ提出することで、協会けんぽへの別途届出は不要となります。
ただし、自社健保の場合には「育児休業等取得者申出書」を自社健保の担当窓口へ提出することが必要となります。
自社健保独自の様式や添付書類の有無については、確認が必要ですので注意しましょう。
次に、届け出た「育児休業等取得者申出書」の育児休業等終了予定年月日と終了日が異なる場合について説明します。
従業員が、予定よりも早く復職する場合には、「育児休業等取得者申出書」の“予定より早く育児休業を終了した場合(B.終了欄)”を記入の上、年金事務所または事務センターへ提出しましょう。
協会けんぽの場合には、添付書類は特に必要ありません。しかし、自社健保の場合は、復職日が分かる出勤簿等の添付が求められることもありますので確認が必要です。
また、従業員が育児休業終了予定日よりも延長する場合には、「育児休業等取得者申出書」の“終了予定日を延長する場合(A.延長欄)”を記入の上、年金事務所または事務センターへ提出しましょう。
育児休業終了後における社会保険料の手続き
従業員の復職後は、育児休業前の報酬に応じた標準報酬月額で社会保険料は計算されます。
復職後の従業員は、時短勤務を選択する者も多く、時短勤務で休業前よりも報酬が減ってしまう上に、休業前の金額で社会保険料も引かれるので、手取りが減ってしまいます。
このような従業員の救済措置として、“育児休業等終了時改定”という制度があります。
この制度は、育児休業明けの社会保険料負担を軽減するために、標準報酬月額の改定をすることができる制度です。
具体的には、育児休業等終了日の翌日が含まれる月以後3か月間(支払基礎日数が 17 日未満の月は除く)の平均額により決定し、4か月目から社会保険料が改定されるというものです。
以上の通り、“育児休業等終了時改定”を行うと、健康保険・厚生年金の保険料は下がることがわかりました。
しかしここで注意しなければならないことは、社会保険料が下がると同時に、将来受け取る年金額も減ってしまうということです。
しかし、この点についても“養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置”という救済措置があります。
この制度は、養育期間中の報酬の低下が将来の年金額に影響しないよう、育児休業前の標準報酬月額に基づいて年金額を計算する制度です。
“育児休業等終了時改定”を行う際には、“養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置”の届出も同時に行いましょう。
〈申請手続き〉
“育児休業等終了時改定”を行うには、会社(実務担当者)が年金事務所または健康保険組合へ「健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出します。
“養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置”を行うには、会社(実務担当者)が年金事務所または事務センターへ「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出します。
なお、本届出には下記の添付書類が必要となります。
(添付書類)
- 戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書
- 住民票の写し(申出者と子が同居していることを確認できるもの)
〈注意点〉
“育児休業等終了時改定”および“養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置”の届出に関しては、従業員が希望する場合のみ届出を行います。
この2つの制度内容について従業員に説明し、届出を必要とするか意向を確認するようにしましょう。
また、従業員へ説明する際には、“養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置”におけるデメリットがあることを補足しましょう。
“養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置”は、厚生年金保険料のみに対応した制度です。
健康保険の傷病手当金や出産手当金の金額は、健康保険の標準報酬月額をもとに算出されるため、社会保険料が安くなっても、健康保険の給付額が少なくなる点がデメリットとなります。
今後の出産を考えている従業員には影響が出てきますので、制度内容についてはここまで説明し、意向を確認しましょう。
育児休業の延長手続き
育児休業は育児・介護休業法において、“原則として子どもが1歳になるまでの間、育児休業を取得することができる”と定められています。
そのため、育児休業は原則対象となる子が1歳を迎えた時点で終了となります。
しかし、保育所に入所できない等、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に限り、再延長して2歳まで育児休業を延長することができます。
ただし、育児休業は無条件に誰でも延長できるわけではありません。育児休業を延長するためには、以下の条件を満たす必要があります。
〈対象条件〉
- 子どもが1歳になる誕生日の前日までに、いずれかの親が育児休業を取得中であり、かつ次の事情がある場合
- 保育所等への入所を希望し申し込みを行っているが入所できない場合
- 子の養育を行っている配偶者であって、1歳以降子の養育予定者が死亡、負傷、疾病等により子を養育することが困難になった場合
※上記と同様の条件で、1歳6か月から2歳までの延長が可能です。
〈注意点〉
育児休業は、あくまで“働きたいけれど子どもがいるために働くことができない”従業員が利用する休業です。
そのため、育児休業期間の延長には、育児休業期間終了後に復職する意思があることが大前提となります。
復職意思がないにも関わらず、育児休業期間を延長することはできません。
実務担当者は、従業員の復職意思の確認はもちろん、子どもが1歳になる時期に復職してもらえるよう、計画的に準備することを促さなければなりません。
また、育児休業の延長を目的として、以下の行為をすると育児休業の延長ができませんので、従業員には説明しておきましょう。
- 保育所への入所の意思がないにも関わらず、人気の園一択で入所申し込みをし、その保育所に入れなかったことを理由として育児休業の延長を申し出る
これは、育児・介護休業法に基づく育児休業の制度趣旨に合致しておらず、育児休業の延長の条件を満たさないこととなります。 - 第一次申込みで、保育所の内定を受けたにもかかわらずこれを辞退したのち、第二次申込みで落選した場合
落選を知らせる「保育所入所保留通知書」にこうした事実が付記されることがあります。
この場合、第一次申込みの内定辞退にやむを得ない理由がない限り、育児休業を延長する条件を満たさないこととなります。また、育児休業給付金についても支給されないこととなりますので注意が必要です。 - 会社独自の育児休業延長に関する規定がある場合があります。
実務担当者は、自社の規定を確認し、延長条件や期間を確認しておきましょう。
〈育児休業期間の延長申請手続き〉
必要書類 | 育児休業申出書(社内様式) |
目的 | 育児休業を延長する |
提出先 | 所轄のハローワーク |
提出期限 | 育児休業終了予定日の2週間前まで |
添付書類 | ※延長理由毎に違うため後述 |
まず実務担当者が覚えておくべきことは、延長申請手続きには期限があるという点です。
育児休業終了予定日(対象となる子の1歳になる誕生日の前日)の2週間前までに、申請手続きを行う必要がありますので覚えておきましょう。
育児休業中の従業員から、育児休業延長の申し出があった場合は、延長申請期限までに「育児休業申出書」(社内様式)を提出してもらいます。
次に、申出書にて延長理由を確認し、従業員が延長対象条件をクリアしていた場合、延長理由ごとに必要な書類(下記※参照)を従業員に準備してもらいます。
この必要書類がないと、正しく延長手続きされない場合がありますので注意しましょう。
※延長理由ごとに必要な書類について
- 保育所入所保留通知書(市町村により発行された、保育所による保育が実施されない証明書)
- 養育を予定していた配偶者が死亡した場合、住民票の写しと母子健康手帳
- 養育を予定していた配偶者が病気やけがをした場合、医師の診断書
- 離婚等により配偶者と別居した場合、住民票の写しと母子健康手帳
- 養育を予定していた配偶者が産前産後の場合、産前産後に係る母子健康手
必要書類がそろい次第、「育児休業給付金支給申請書」の18欄“支給対象となる期間の延長事由-期間”に必要情報を記載し、従業員から提出してもらった必要書類を添付の上、会社(実務担当者)がハローワークへ届出を行います。
ハローワークが期間の延長を認めた場合、ハローワークから“期間延長”と記載された「育児休業給付金支給決定通知書」が発行されます。
また、添付書類の不備等で延長が認められなかった場合には、支給期間満了までを申請するか、再度添付書類を整えた上で再申請することとなります。
〈育児休業給付金の延長申請手続き〉
育児休業給付金の延長申請手続きは、以下2つのいずれかの申請時に、期間延長と同様の必要書類を添付の上、「育児休業給付金支給申請書」をハローワークへ届出します。
- 延長する期間の直前の支給対象期間の支給申請時
- 1歳(または1歳6か月)到達日を含む延長後の支給対象期間の支給申請時
ただし、有期雇用労働者の場合には、“対象の子が1歳6か月になるまでに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)が満了しないこと”という支給条件がありますので、支給条件を満たすか確認が必要です。
〈社会保険料免除の延長申請手続き〉
従業員が育児休業終了予定日よりも延長する場合には、「育児休業等取得者申出書」の“終了予定日を延長する場合(A.延長欄)”を記入の上、年金事務所または事務センターへ提出しましょう。
本申請手続きには、添付書類は必要ありません。
2023年4月施行 育休取得状況の公表義務付け
2023年4月1日から、常時雇用する労働者数が1,001人以上の企業は、育児休業の取得状況を年1回公表することが義務付けられます。
“常時雇用する労働者”とは、雇用契約の形態を問わず、次の2つのいずれかに該当する労働者が“常時雇用する労働者”となります。
- 期間の定めなく雇用されている者
- 一定の期間を定めて雇用されている者または日々雇用される者であって、その雇用期間が反復更新されて事実上期間の定めなく雇用されている者と同等と認められる者。
すなわち、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者または雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者
〈公表内容〉
公表する内容は、“①育児休業等の取得割合”または“②育児休業等と育児目的休暇の取得割合”のいずれかの割合となります。①または②いずれかの割合を、インターネットの利用(自社のHP等)その他適切な方法で、一般の方が閲覧できるように公表しなければなりません。
そして公表する際には、①または②のいずれの方法により算出したものかを明示する必要があります。
〈取得率の計算方法〉
公表する“①育児休業等の取得割合”“②育児休業等と育児目的休暇の取得割合”の計算方法は、以下の通りです。
①(公表前事業年度において)育児休業等を取得した男性従業員の数/(公表前事業年度において)配偶者が出産した男性従業員の数
②(公表前事業年度において)育児休業等を取得した男性従業員の数+小学校就学の始期に達するまでの子の育児を目的とした企業の休暇制度を利用した男性従業員の数/(公表前事業年度において)配偶者が出産した男性従業員の数
〈注意点〉
- 公表する割合を計算する際の“公表前事業年度”とは、公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度を指します。
また公表する際には、当該割合の算定期間である公表前事業年度の期間も明示しなければなりません。
計算する際および公表する際には、十分注意しましょう。 - 育児休業を分割取得したことに対する育児休業取得率の計算については、対象となる子が同一の場合は、1人として計算をします。
(育児休業と育児を目的とした休暇制度の両方を取得した場合であっても同様です。) - 事業年度をまたがって育児休業を取得した場合、育児休業を開始した日を含む事業年度のみを1人として計算をします。
(分割して複数の事業年度において育児休業等を取得した場合であっても同様です。)
〈事実と異なる報告を行った場合〉
育休取得状況の公表は、努力義務ではなく義務です。
事実と異なる報告を行った場合は、罰則が科されることとなります。
さらに、勧告に従わない・報告を怠った企業については、厚生労働省のHP等への企業名の公表と最大20万円の過料が課される可能性があります。
実務担当者は制度の概要を把握し、算定期間や育休取得数に誤りが生じないように注意しましょう。
まとめ
実務担当者は、従業員から妊娠・出産の報告を受けたら、行政への手続き、休業を取得する従業員との連絡業務等やらなければならないことがたくさんあります。
その中で、改正育児・介護休業法が2021年6月に成立し、2022年4月から順次施行されたことにより、今までよりも負担が増えているということもあるかもしれません。
しかしながら、手続きに関しては期限があるものも多く、スムーズに手続きを行うことが求められています。
各制度について理解を深め、自分や会社の中で手続きの流れを決めておく、マニュアル化しておく等、スムーズに手続きを行えるように準備しておきましょう。
また、育児休業への対応は、ミスが生じやすく、従業員とのトラブルにもなりやすいものです。
育児休業について、休業を取得する従業員だけではなく、従業員への周知を徹底し会社全体で理解を深めることで、ミスや認識不足も軽減され、双方が気持ちよく利用できる制度となるでしょう。
“育児休業を当たり前に取得できる環境整備”“柔軟な働き方がしやすい環境整備”について、会社全体で取り組みましょう。