従業員がダブルワークをする場合の会社の注意点2つ
近年、働き方改革などを背景に、ダブルワークを始める労働者が増加しています。
ダブルワークには、収入が増える、新たなスキルが身につくといった労働者側のメリットだけでなく、労働者の自主性の促進や、人材流出の回避など、企業側にも多くのメリットがあります。
そのため、ダブルワークをする労働者の数は今後さらに増加すると考えられています。
ただ、従業員がダブルワークをする際、労務管理上、会社側が注意しなければならない点が大きく2つあります。
- 従業員のダブルワークを一切禁止することはできない
- 労働時間の管理・把握が難しい
今回は、それぞれについて詳しく解説をしたいと思います。
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注意点1,従業員のダブルワークを全面禁止することはできない
従業員のダブルワークについて、会社が注意しなければならない点の1つ目は、会社は従業員のダブルワークを一切禁止することはできないということです。
そもそも、従業員が勤務時間外の時間をどのように使うかは、基本的に従業員が自由に決められます。
そのため、従業員がダブルワークを希望した場合に、会社側がこれを禁止したり制限することは、原則としてできないのです。
ただし、従業員は労働契約に付随する義務として、競業避止義務や秘密保持義務などを負っています。
よって、従業員がこれらの義務に違反するような場合には、例外的に、会社は従業員のダブルワークを禁止したり制限することが認められています。
ダブルワークを禁止・制限できる4つのケース
会社が従業員のダブルワークを禁止・制限できるのは、従業員が負っている秘密保持義務などに反する恐れがある場合です。
具体的には、次の4つのケースに限り、会社は従業員のダブルワークを禁止・制限できます。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
具体的にどのような場合か、解説をします。
労務提供上の支障がある場合
ダブルワークにより、従業員の業務量や労働時間が著しく過重になる場合には、会社はダブルワークを禁止・制限することができます。
例えば、ダブルワーク先の労働時間が長時間である場合や、深夜にわたる場合、激しい肉体労働である場合などが考えられます。
業務上の秘密が漏洩する場合
自社の業務上の秘密が、ダブルワーク先で漏洩されてしまう場合です。
会社は事前に、業務上の秘密の範囲や漏洩の意味について、従業員にしっかりと説明しておく必要があります。
競業により自社の利益が害される場合
競業によって、自社の正当な利益が害される場合にも、会社はダブルワークを制限できます。
ここで注意が必要なのは、あくまで自社の利益が害される場合であることが必要という点です。
そのため、例えばダブルワーク先が単に競合他社であるというだけでは、会社の正当な利益が侵害されたわけではありませんから、ダブルワークの制限等ができない可能性があります。
自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
違法な業務や、自社のイメージを著しく損なうような業務とのダブルワークは禁止・制限することが可能です。
例えば、反社会的な勢力が関わっている組織での業務等の場合です。
就業規則で明示しておきましょう
ダブルワークをするかどうかは原則として従業員の自由であり、会社は特別な理由がある場合に例外的に禁止したり制限することができます。
会社としては、ダブルワークが禁止・制限できるケースについて、あらかじめ就業規則などに記載し、労働者に明示しておきましょう。
そうすることで、不要な労使トラブルを避けることができ、また、労働者はダブルワーク先を探しやすくなるからです。
ここで注意が必要なのは、従業員がこの就業規則に違反したとしても、それだけの理由では、会社は懲戒処分できない可能性があるということです。
従業員のダブルワークが形式的に就業規則に違反していたとしても、それが軽微な違法で、会社の秩序に影響がないような場合には、懲戒処分は無効とされるケースがあるためです。
注意点2,労働時間の管理が難しい
従業員がダブルワークをする場合に、会社が注意しなければならない点の2つ目は、「労働時間の管理が難しい」という点です。
基本的に会社は、自社の従業員について、自社の労働時間だけでなく、他の会社の労働時間も含めて全体的に管理・把握しておかなければなりません。
なぜなら会社は、労働者が安全かつ健康に労働できるよう配慮する義務を負っており、自社以外で長時間労働などをしている場合には、それに応じた配慮が必要になるからです。
また、労働基準法では、労働時間について単月100時間未満、複数月平均80時間以内にしなければならないと定めていますが、この規定は、すべての事業場の労働時間を通算して適用されます。
そのため、ダブルワーク先の労働時間も把握しておかないと、知らない間に労働基準法違反になってしまう可能性があるのです。
ダブルワーク時の労働時間の管理方法
従業員がダブルワークをする際の、基本的な労働時間の管理方法は次の通りです。
まず、従業員からダブルワークの申請があった場合、自社の所定労働時間とダブルワーク先の所定労働時間とを通算します。
通算の結果、法定外労働時間がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した事業場で36協定の締結や割増賃金の支払いが必要になります。
また、所定外労働時間が発生する場合には、それぞれの所定外労働時間を発生順に通算して、法定外労働時間を把握し、必要に応じて36協定の締結や割増賃金の支払いをします。
厚生労働省の管理モデルによる時間管理
厚生労働省は、従業員がダブルワークをする場合に、会社が適法かつ効率的に労働時間管理を行える「管理モデル」を案内しています。
管理モデルによると、会社はダブルワーク開始前に、あらかじめダブルワーク先の労働時間の上限を設定しておき、従業員を通じて、ダブルワーク先の会社に通知します。
ダブルワーク先が、この上限に応じれば、それぞれが相手方の労働時間を把握することなく、労働時間の管理を行うことが可能になります。
もし、ダブルワーク希望者がいる事業者では、管理モデルの導入を検討してみるとよいでしょう。
まとめ
従業員がダブルワークを始める場合、会社は労務管理上、次の2点に注意が必要です。
- 従業員のダブルワークを一切禁止することはできない
- 労働時間の管理・把握が難しい
それぞれ、適切に対応するためには、就業規則の改定などしっかりと社内で準備をすることが必要です。
突然、従業員からダブルワークを申請されて、慌てて対応しなくてもよいよう、担当者はあらかじめ流れや注意点を把握しておきましょう。