障害者雇用納付金制度とは?わかりやすく簡単に解説します
2023年1月18日、厚生労働省は企業に義務づけられている障害者の雇用率について、現在の2.3%から段階的に引き上げ、2024年4月には2.5%、2026年には2.7%まで引き上げることを決定しました。
企業にとっては数字だけを達成すればよい問題でもなく、雇用環境の整備も必要となるうえ、雇用の質についても向上を図りたいところであるため、厳しい課題ともいえるでしょう。
そんな障害者の雇用率ですが、法定の基準を下回った企業は“障害者雇用納付金”を支払わなければならなかったり、行政指導を受けることになったりします。
そこで今回は、「障害者雇用納付金制度」について詳しく解説していきます。
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障害者雇用納付金制度とは?
障害者雇用納付金制度とは、障害者雇用促進法に基づき設けられた納付金制度です。
障害者を雇用するには、車いす対応トイレへの改修やスロープの設置など、あらゆる障害に対応した施設への改善や整備を行う必要があり、雇用側(企業)には経済的負担がかかります。
しかし、障害者雇用は企業の社会的責任であるため、設備投資をしながら積極的に雇用義務を果たさなければなりません。
このように、積極的に障害者雇用の義務を果たしている企業と果たしていない企業の、費用負担格差を是正するために、障害者雇用納付金制度は設けられています。
徴収された障害者雇用納付金は、法定雇用率を達成している企業に対して支払われる、調整金や報奨金の財源となります。
障害者雇用の義務を果たしている企業に対して、調整金や報奨金を支払うことにより、障害者の雇用促進及び職業の安定を図ることが可能となるのです。
障害者雇用納付金の申告義務がある企業
納付金の申告義務がある企業は、常用雇用労働者の総数が100人を超えるすべての企業です。
「常用雇用労働者の総数が100人を超える企業」とは、申告申請の対象期間となる前年度の4月から3月までの12か月間のうち、常用雇用労働者の数が100人を超える月が5カ月以上ある企業です。
常用雇用労働者の総数が100人を超える企業は、法定雇用率を達成しているか否かに関わらず、当該年度の申告が必要となります。
障害者雇用納付金の金額は?
常用雇用労働者が100人を超える企業で、障害者雇用率を下回っている場合は、法定雇用障害者数に不足する障害者1人につき、月額5万円の納付金を納めなければなりません。
納付金額の例
常用雇用労働者が120人の企業の場合、120人×2.3%(法定雇用率)=2.76人
小数点以下は切り捨てとなるため、常用雇用労働者が120人の企業では、2人以上の障害者を雇用する義務があることになります。
もし1人も障害者を雇用していない場合は、法定雇用障害者数に足りない人数2人分×5万円で月額10万円、年額120万円の納付金を納めることとなります。
以上の計算は、金額の目安としてのざっくりとしたものです。正確な障害者雇用納付金の算定をする際は、障害の種類や程度を踏まえて算定する必要があります。
障害者雇用納付金の申告申請手続き・納付方法
障害者雇用納付金の申告申請手続きの流れ
①常用雇用労働者数を数える
まずは、自社が障害者雇用納付金の申告義務がある企業であるか確認します。
そのために、自社の常用雇用労働者数を把握してください。
申告申請の対象期間となる前年度の4月から3月までの12か月間のうち、常用雇用労働者数が100人を超える月が5カ月以上ある場合、障害者雇用納付金の申告義務がある企業ということになります。
※障害者雇用納付金制度における常用雇用労働者とは、雇用契約の内容に関わらず、以下のとおりとなります。
常用雇用労働者=週所定労働時間30時間以上の労働者数+(週所定労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働者数×0.5※)※1人を0.5カウント
なお、週所定労働時間20時間未満の労働者に関しては、障害者雇用納付金制度上の常用雇用労働者の範囲には含まれないので、注意しましょう。
②除外率による計算をする
障害者の就業が難しいとされている業種には、障害者の雇用義務が軽減される「除外率制度」が適用されています。
この「除外率制度」が適用されている企業は、ハローワークに提出している“障害者雇用状況報告書”の除外率を、“障害者雇用納付金”の申告申請書に記入する必要があります。
そして、この除外率が適用されている場合は、以下のとおり除外率による計算をおこないましょう。
常用雇用労働者数-(常用雇用労働者数×除外率)
③雇用障害者数を数える
自社が障害者雇用納付金の申告義務がある企業であった場合、申告申請の対象期間(前年度の4月から3月までの12か月間)の、各月の雇用障害者数を数えてください。
除外率が適用されている場合は、除外率による計算をおこなった数に法定雇用率(2.3%)をかけて、各月の法定雇用障害者数を算出します。
そして、各月の数字を合計して年間の雇用障害者数を算出し、法定雇用率を達成しているか否かを判断します。
※障害者の雇用時間や障害の種類・程度によって、以下のとおりにカウント方法が定められています。自社の算出をおこなう際は、ご留意ください。
一週間の 所定労働時間 | 常用雇用労働者 (30時間以上) | 短時間労働者 (20時間以上30時間未満) |
---|---|---|
重度身体障害者 重度知的障害者 | 2人 | 1人 |
身体障害者 知的障害者 | 1人 | 0.5人 |
精神障害者 | 1人 | 0.5人 (※特例措置により1人) |
精神障害者のカウント方法について、2022年度末まで短時間労働者を採用から3年間は1カウントとする特例措置が設けられていました。
しかし、精神障害者の職場定着率は短時間勤務の場合が相対的に高くなっており、その職場定着を進める観点から、精神障害者である短時間労働者を1カウントとする特例が2023年度も継続することとなりました。
計算を行う際には、注意が必要です。
④申告書の作成・提出
①〜③の確認ができたら、「障害者雇用納付金」申告申請書を作成します。
所定の様式ではない書類に記載してしまうと、再提出を求められる場合があるため、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の様式を使用するようにしましょう。
作成した申告申請書は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のHPより電子申告申請を行うことができます。
原則、電子申告申請が求められていますが、難しい場合は各都道府県申告申請窓口に郵送もしくは持参し提出してください。
なお、2023年度(令和5年度)の提出期間は2023年4月1日〜5月15日までとなっています。
提出期間に間に合うように、準備のうえ申告申請を行いましょう。
納付方法
自社が障害者雇用納付金の納付対象となっている場合、期日(2023年度は2023年4月1日〜5月15日)までに納付を行います。
決定額の通知は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から発出されないため、注意が必要です。
なお、納付額が100万円以上の場合、申告書を提出する際に延納の申請を行うと延納が可能となり、納期を3回に分けることができます。
延納する際のスケジュールは以下のとおりです。
第1期:2023年5月15日まで・第2期2023年7月31日まで・第3期2023年11月30日まで
また、障害者雇用納付金の納付方法は以下の2とおりです。
- 納付書による金融機関窓口での納付
指定の納付書を使用し、各都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、外資系金融機関及び信用金庫の本支店窓口にて納付します。
指定の納付書は、事前に各都道府県申告申請窓口から送付されます。
- ペイジー(インターネットバンキング)での納付
ペイジーに対応している銀行については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のHPをご確認ください。
調整金・報奨金について
障害者雇用納付金の納付対象となっている企業から納付された納付金は、法定雇用率を達成している企業に対して支払われる、調整金や報奨金として支給されます。
法定雇用率を達成している企業が、これらの支給を受けるためには、申請が必要となります。
支給を受けるための手続きや、調整金・報奨金について解説していきます。
障害者雇用調整金の支給
常用雇用労働者が100人を超える企業が、法定雇用率を上回って障害者を雇用している場合、企業からの申請に基づき、上回っている障害者数に応じて、一人当たり27,000円の障害者雇用調整金が支給されます。
申請期限・申請方法
2023年度(令和5年度)の申請期限は、4月1日〜5月15日までです。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のHPから、所定の様式をダウンロードすることができます。
障害者雇用納付金の申告申請と同様に、原則、電子申告申請が求められていますが、難しい場合は各都道府県申告申請窓口に郵送もしくは持参し提出してください。
報奨金の支給
常用雇用労働者が100人以下の月が8か月以上である企業は、障害者雇用納付金の申告義務や納付金の納付義務はありません。
しかし、報奨金の対象期間(前年度の4月から3月までの12か月間)の雇用障害者数を数え、支給要件として定められている数を超えて障害者を雇用している場合は、報奨金の支給申請が可能です。
支給要件として定められている数とは、各月の常用雇用労働者数の4%の年度間合計数、または72人のいずれか多い数です。
その数を上回っている障害者数に応じて、一人当たり21,000円の報奨金が支給されます。
申請期限・申請方法
2023年度(令和5年度)の申請期限は、4月1日〜7月31日までです。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のHPから、所定の様式をダウンロードすることができます。
障害者雇用納付金の申告申請と同様に、原則、電子申告申請が求められていますが、難しい場合は各都道府県申告申請窓口に郵送もしくは持参し提出してください。
在宅就業障害者特例調整金/在宅就業者特例報奨金について
在宅就業障害者特例調整金および在宅就業者特例報奨金の制度は、障害者の在宅就業を支援するための制度です。
障害者雇用納付金の申告義務のある企業、もしくは報奨金の申請企業が、前年度に在宅就業障害者または在宅就業支援団体に対し仕事を発注し、業務の対価を支払った場合、支払った業務の対価に応じた額の在宅就業障害者特例調整金または同報奨金が支給されます。
在宅就業障害者特例調整金の額は、以下の計算となります。
在宅就業障害者への支払総額÷評価額(350,000円)×21,000円
なお、法定雇用率が未達成で障害者雇用納付金の納付対象となる企業が、在宅就業障害者特例調整金を受給する場合には、その額に応じて障害者雇用納付金が減額されます。
在宅就業者特例報奨金の額は、以下の計算となります。
在宅就業障害者への支払総額÷評価額(350,000円)×17,000円
申請期限・申請方法
在宅就業障害者特例調整金は障害者雇用調整金と同様、在宅就業者特例報奨金については報奨金の申請期限・申請方法と同様となります。
特例給付金について
特例給付金は、短時間であれば就労可能な障害者等の雇用機会を確保するために、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者を雇用している企業に対して、障害者雇用納付金を財源として支給する制度です。
企業が特定短時間労働者(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)である障害者を雇用した場合、常用雇用労働者の総数に応じ、1人につき月額7,000円(従業員数100人超)または、5,000円(従業員数100人以下)の特例給付金が支給されます。
なお、特定短時間労働者である障害者は、障害の程度等にかかわらず実人数でカウントすることとなりますので、間違うことの無いように注意しましょう。
申請期限・申請方法
常用雇用労働者が100人を超える企業の申請期限は、4月1日〜5月15日までです。
また、常用雇用労働者が100人以下の企業の申請期限は、4月1日〜7月31日までとなります。
所定の様式にて原則電子申告にて申請を行う等については、調整金や報奨金の申請方法と同様です。
各種調整金等の支給方法・支給時期
各種調整金等については、申請内容を審査したうえ、2023年10月〜12月までの間に、申請者が指定した金融機関の預金口座へ調整金が振り込み送金される予定です。
詳しい送金日については、「支給決定通知書」の送付をもって企業は知らされることとなります。
障害者雇用納付金の注意点
申告申請の義務があるのに障害者雇用納付金を納付しない場合
申告申請をしない企業に対しては、障害者の雇用の促進等に関する法律(法第56条第4項)に基づき、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が障害者雇用納付金の額を決定し、納付金のほかに納付金額の10%の追徴金が課せられることとなります。(法第58条第1項)
納付期限を過ぎているのに納付しない場合
納付期限を過ぎても障害者雇用納付金を納付しない場合は、障害者の雇用の促進等に関する法律(法第59条第1項)により、改めて納付期限を指定して、督促状が発出されます。
督促を受けてもなお、その指定期限内に納付金等を完納しない場合は、国税滞納処分の例により滞納処分が行われます。(法第59条第3項)
滞納処分とは、滞納した税金や納付金等を、税金滞納者の財産(例えば預金口座、不動産、自動車等)を差し押さえることで徴収する手続きです。
また、督促状の期限までに完納または滞納処分が行われた場合は、年14.5%の割合で、納付期限の翌日から完納(または財産差押えの日の前日)までの日数により計算した延滞金が徴収されることとなります。(法第60条第1項)
プライバシーと個人情報保護に努めましょう
企業は雇用障害者数を把握するため、障害者を雇用する際、障害の種類や程度などを把握しなければなりません。
しかし、障害者の個人情報や健康状態についてはセンシティブな内容にもなるため、十分な配慮が必要となります。
企業は、適切な方法で個人情報を保護し、適正な手順を踏んで雇用促進を図るよう努めましょう。
まとめ
障害者雇用は社会的責任も含んでおり、障害者雇用は企業の義務です。
さらに障害者雇用は、企業の社会的責任だけでなく、多様性を尊重し、人材確保の観点からも重要な取り組みであると言えるでしょう。
経営者や人事担当者は、法律を理解し、法定雇用率達成のため、企業自身の持続的な成長のために、自社ができることを考えて取り組んでいかなければなりません。
企業として法律を遵守しつつ、積極的に障害者雇用に取り組むことは、企業の社会的な評価や業績向上にもつながります。
調整金や報奨金、その他各種助成金等を上手に活用し、障害者雇用にかかるコストを軽減しながら障害者の雇用促進に取り組みましょう。