新型コロナウイルスの感染症でも傷病手当金はもらえる?
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、陽性反応が出てしまい、出社できなくなるケースが増えています。
従業員がケガや病気で仕事ができなくなったときは、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
ですが、傷病手当金については、あまり手続きについて詳しくない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、新型コロナウイルスに感染した場合でも、傷病手当金がもらえるのか、その場合にはどんな手続きが必要なのか、添付書類は何が必要なのか、等について解説したいと思います。
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そもそも傷病手当金とは何?
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、業務外のケガや病気が原因で仕事ができなくなったときに、健康保険から支給される給付金です。
ケガや病気により仕事ができなくなってしまった被保険者と、その家族の生活の保障を目的としています。
ポイントは「業務外」のケガや病気で仕事ができなくなった場合に支給されるという点です。
業務上のケガや病気に対しては、労災保険の対象となります。
また、よく似た制度に雇用保険の傷病手当がありますが、こちらは、退職後ハローワークで求職の申込みをしたあとに、ケガや病気などで就業できなくなってしまったときに支給される給付金です。
全く違う制度なので、間違えないよう注意しましょう。
新型コロナウイルスも傷病手当金の支給対象です
新型コロナウイルスに感染し、仕事ができなくなった場合も、傷病手当金の支給対象となるのでしょうか。
次のいずれかに該当する場合であって、かつ他の支給要件を満たしていれば、傷病手当金の支給を受けることができます。
- 新型コロナウイルス感染が陽性の場合
- 新型コロナウイルス感染や陰性または検査未実施だが発熱などの症状がある場合
新型コロナウイルスが陽性の場合は、発熱などの自覚症状が出ていない方も、傷病手当金の対象となります。
また、新型コロナウイルス感染後の後遺症のため、仕事ができない場合についても、傷病手当金が支給される可能性があります。
新型コロナウイルス感染症の治癒後に会社から自宅待機命令を受けた場合
先ほど説明したとおり、新型コロナウイルス感染症も傷病手当金の対象ですが、治癒後に、会社が感染拡大防止などを理由として自宅待機命令をしたため、就労できない場合は、傷病手当金の対象とはなりません。
傷病手当金は、業務外のケガや病気により、療養のため仕事ができなくなった場合に支給される給付金です。
会社が感染防止を目的として自宅待機命令を発したことが原因で仕事ができない場合は、ケガや病気による療養のための就労不能とはいえません。
そのため、傷病手当金は支給されないのです。
この場合、被保険者は傷病手当金の対象とはなりませんが、休業手当の対象になる可能性があります。
休業手当とは、会社側の都合で労働者を休ませた場合に、その労働者に対して支払わなければならない手当のことをいいます。
休業手当の額は、対象となる労働者の平均賃金の100分の60となっています。
新型コロナウイルス感染症の場合は国民健康保険の被保険者も傷病手当金の対象
本来、傷病手当金は健康保険の制度です。
そのため、国民健康保険の被保険者が、業務外のケガや病気で仕事ができなくなっても、原則として傷病手当金は支給されません。
しかし、労働者が新型コロナウイルスに感染した場合に、仕事を休みやすい環境を整備するという目的から、各自治体では、国民健康保険の被保険者を対象に、傷病手当金を支給する取組みを実施しています。
厚生労働省も各自治体に対して、国民健康保険の被保険者に対する傷病手当金制度の実施を促すとともに、財政支援を行っています。
ただ、国民健康保険被保険者に対する傷病手当金の制度については、各自治体ごとに取組みが行われている制度なので、手続きや必要書類などは、各自治体ごとに異なる可能性があります。
国民健康保険の被保険者の方で、傷病手当金を検討している方は、各自治体の窓口に相談してみるとよいでしょう。
傷病手当金をもらうための条件
傷病手当金は、原則として、健康保険の被保険者であって、次の要件すべてに該当する人に支給されます。
- 業務外の事由によるケガや病気によって療養中であること
- 療養のため仕事をすることができない状態にあること
- 3日間の待期期間を含み4日以上仕事を休んでいること
- 給与の支払いがないこと
原則として、給与の支払いを受けている場合、傷病手当金は支給されませんが、給与の額が傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
傷病手当金の待期期間とは?
業務外のケガや病気で仕事ができなくなった日から、連続3日間は傷病手当金を受け取ることはできません。
この連続した3日間のことを「待期期間」といい、傷病手当金をもらうための条件の1つとなっています。
連続した3日間であることが必要となるため、例えば、間に出社日を挟んだ場合は、待期期間の経過したことにはならず、傷病手当金は支給されません。
待期期間中、給与の支払いがあったかどうかは問われないため、会社から賃金が支払われていたとしても、労働をしていなければ、待期期間に含まれます。
また、法定休日や有休休暇であっても、待期期間に含まれます。
傷病手当金の支給金額と支給期間
1日当たりの傷病手当金の支給金額は、次の計算式によって算出されます。
「支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×(2/3)」
ざっくり考えると、賞与を含まない1日の賃金の約3分の2が傷病手当金の支給金額になると考えておけばよいでしょう。
また、傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
令和4年1月1日より、傷病手当金の支給期間は通算することが可能になったため、支給期間の途中で就労するなどして、傷病手当金の支給を受けられない期間があった場合、その期間は1年6か月に含まれません。
傷病手当金の申請手続き
新型コロナウイルスに感染している場合でも、傷病手当金を申請する際の手続きは基本的に同じです。
必要書類 | 健康保険 傷病手当金支給申請書 |
目的 | 傷病手当金を申請するため |
提出先 | 管轄する協会けんぽの都道府県支部、または健康保険組合 |
提出期限 | 一般的には仕事ができるようになった後に請求。 長期間休業する場合は通常1カ月程度に区切って請求 |
添付書類 | 次の場合はそれぞれ添付書類が必要(2回目以降の申請では不要) ケガ(負傷)の場合「負傷原因届」 交通事故など第三者による傷病の場合は「第三者行為による傷病届」 |
傷病手当金は、申請ができるようになった日の翌日から起算して2年間で時効により消滅します。
2年経過後は申請することができなくなるので注意しましょう。
また、支給開始日以前の12ヶ月以内に事業所の変更があった場合には、添付書類として、以前の各事業所の名称・所在地・各事業所に使用されていた期間がわかる書類が必要になります。
新型コロナに係る申請の場合は医師の意見書(証明)が不要
健康保険 傷病手当金支給申請書には、被保険者と事業主だけでなく、医師の意見・証明を記載しなければなりません。
医師の証明のない傷病手当金の申請書は原則として、受け付けてもらえません。
ただし、新型コロナ感染に関する傷病手当金で、令和4年8月9日以降に申請するものついては、例外的に医師の証明が不要となりました。
これは、医師の証明を不要とすることで、医療従事者への負担軽減を目的とした例外的な取扱いとなります。
医師の証明を省略する場合には、事業主による就労不能なことについての証明が必要となります。
ただ、この措置はコロナ禍における臨時的な取扱いなため、感染状況次第で、また医師の証明が必要になる可能性があるので注意しましょう。
まとめ
新型コロナウイルスに感染した方も、傷病手当金の支給対象となります。
新型コロナ感染者に対する傷病手当金については、医師の証明が不要になる、国民健康保険の被保険者の対象になるなど、特別な取扱いが認められています。
ただ、これらの取扱いは、あくまで臨時的なものなので、今後の状況次第では、ルールが変更になる可能性があります。
従業員が新型コロナウイルスに感染し、就労ができなくなった場合には、傷病手当金を案内できるよう、会社の担当者としては、基本的な手続きについてきちんと押さえておきましょう。