社労士との顧問契約、メリットとデメリットをわかりやすく解説
社会保険業務の負担を軽減させたい場合や、労務相談ができる専門家を付けたい場合などは、社労士と顧問契約を締結するのがおすすめです。
社労士と顧問契約を締結すれば、自社内で社会保険業務等を処理する場合と比べて、大幅な業務効率化およびコスト削減が可能になります。
ただ、これから社労士を導入しようか検討している方にとっては、費用に見合うだけのメリットがあるのか、また、デメリットはないのか等が気になることでしょう。
そこで今回は、社労士との顧問契約を検討している方を対象に、社労士と顧問契約を締結するメリットとデメリットについて、わかりやすく解説したいと思います。
”「最新の法改正」や「人事トレンド」など、人事・労務担当者必見の資料を無料で配布中!こちらからダウンロードできます”
社労士と顧問契約を締結する5つのメリット
これから社労士との顧問契約を検討している方にとって、最も気になるのが「社労士に頼むとどんなメリットがあるのか」という点だと思います。
社労士と顧問契約を締結する際は、事前にどんなメリットがあるのかを正確に把握しておかないと、あとから「思っていたのと違う」とトラブルになる可能性があります。
そこで、社労士との顧問契約を締結する主なメリットについて解説したいと思います。
本来の業務(コア業務)に集中できる
社労士と顧問契約を締結していない、経営者や人事・労務等の担当者が、従業員の社会保険や労働保険の手続きや届出を行っているかと思います。
従業員が少ない会社であればそれほど負担にならないかもしれませんが、従業員が増えてくると、頻繁に発生する社会保険関係の手続きは大きな負担となります。
その結果、会社運営や人材育成、採用活動など、経営者や担当者が本来行うべき業務(コア業務)に時間が割けなくなるという弊害が生じます。
会社運営や人材育成等は、基本的にその会社が行うべき業務ですが、社会保険関係の業務は、間違えなければ基本的に誰がやっても結果に違いはありません。
そのため、社労士に社会保険関係の手続き業務を丸投げすることで、経営者や担当者は本来の業務に専念・集中でき、結果として業務効率化を図ることができるというメリットがあるのです。
法改正や補助金・助成金などの最新情報を得られる
知っている方も多いと思いますが、社会保険や労働保険に関する法令は、実は毎年のように頻繁に改正されています。
最近も法改正により、産後パパ育休制度(出生時育児休業)が新設されたり、社会保険の加入要件が緩和されたりしたため、多くの事業所で就業規則や36協定の改定、社内ルールの整備などの対応に追われました。
こうした法改正情報のキャッチが遅れると、期限ギリギリで対応が間に合わなかったり、慌てて対応してミスをしてしまうなどのリスクが生じます。
社労士事務所では、こうした最新の法改正情報は常にチェックし、必要に応じてクライアントに情報連携をしているため、社労士と顧問契約を締結すれば、企業は余裕をもって法改正に対応できるというメリットがあります。
同じように、企業を支援する補助金や助成金についても、頻繁に新しい制度が作られたり、改正されたりします。
こうした情報を、経営者や担当者がすべてチェックするのはとても時間がかかるため、効率的とはいえません。
こうした補助金や助成金の情報をタイムリーに手に入れられるというのも、社労士と顧問契約を締結するメリットといえます。
従業員の問い合わせ対応が効率化
社労士事務所によっては、クライアント企業の従業員からの問い合わせ対応をしてくれます。
例えば、従業員から「被保険者証がまだ届いていない」や「出産育児一時金が支給されるのはいつか知りたい」などの相談を受けた経験のある経営者や担当者の方は多いのではないでしょうか。
こうした問い合わせも、従業員が数名程度であればそれほど気にならないかもしれませんが、従業員数が増えてくると、その対応業務の負担は無視できないものとなります。
従業員からの相談対応業務を外注できるのは、社労士と顧問契約を締結するメリットといえます。
また、社会保険関係の専門の窓口があり、そこが迅速かつ丁寧に対応してくれるということは、従業員の満足度向上にもつながります。
手続きミスや遅れを防止
経営者や担当者の中には、社会保険関係の届出や書類等を出し忘れたことがある、または記載内容や添付資料が間違っていたため受け付けてもらえなかった、といった経験のある方がいるのではないでしょうか。
経営者や担当者が手続きをする場合、日々の業務に追われ、つい手続きを忘れてしまうというケースはよくあります。
しかし、社会保険関係の手続きは、遅れたり忘れたりすると、従業員に迷惑がかかったり、さらに面倒な手続きが必要になったりします。
また、社会保険や労働保険の手続きは、申請書類の他に添付書類や提出期限、提出先などルールが細かく定められており、間違えると受け付けてもらえず、あらためて届出をする必要があります。
社会保険労務士は社会保険関係の手続きに関するプロなので、手続きを忘れたり間違えるといったミスは基本的に発生しません。
社会保険関係の手続きをスムーズにミスなく進められるというのは、社労士に業務委託する大きなメリットといえます。
業務の効率化につながる
ここまで社労士と顧問契約を締結するメリットについて具体的にあげてきましたが、要するに、「業務の効率化につながる」という点が最も大きなメリットといえるでしょう。
例えば、慣れない経営者や担当者の方が、離職票の作成に何時間もかけたりしていないでしょうか?社労士であれば数分で作成することができます。
また、算定基礎届の際に計算ミスや記入ミスが発生していないでしょうか?社労士であれば、ミスなく迅速に手続きを進めることが可能です。
このように、社会保険や労働保険関係の手続きに関する業務が短縮され、業務効率を大幅に改善できるのが社労士に業務委託する一番のメリットです。
また、優良な社労士事務所であれば、その他にも、最新の法改正情報の共有や、適切な助成金・補助金コンサルタント、また労務相談対応をしてくれる等のメリットがあります。
社労士と顧問契約を締結する3つのデメリット
社労士と顧問契約を締結することは、当然ですがメリットばかりではありません。
きちんとデメリットについても把握しておかないと、後から「こんなはずではなかった」と後悔する可能性があります。
そこで、社労士と顧問契約を締結する際の主なデメリットについて解説をします。
費用(顧問料)が発生する
当然ですが、社労士と顧問契約を締結すると、費用(顧問料)が発生します。
以前、社労士に支払う報酬は一律だったのですが、現在は法改正によって自由化されています。
そのため費用は、従業員数やサービス内容等によって、社労士事務所ごとに大きく異なります。
できるだけ費用を低く抑えたいと思うのは当然ですが、あまりに安いと、期待していたサービスを受けられない等のトラブルにつながる可能性があるので注意が必要です。
社内の業務効率化と費用を比較して、実際に効果がでるかどうかしっかりと検討することが重要です。
配置転換が必要になる可能性
社労士と顧問契約を締結し、社会保険業務を委託すると、自社で社会保険関係の業務を行う必要がなくなります。
そのため、それまで社内で社会保険関係の業務を行ってきた担当者がいる場合、その方の業務がなくなり、配置転換等が必要になります。
配置転換をする際は、配置転換後の職種がその担当者にとって適切か、担当者が配置転換に納得しているか等、あらためて検討が必要になります。
後から従業員とトラブルにならないためにも、社労士に業務委託をする際は、事前に担当者と相談し、配置転換等の計画を立てておくことが重要です。
個人情報流出のリスク
社労士と顧問契約を締結し業務を依頼する場合、従業員の個人情報を提供する必要があります。
このとき提供する情報には、従業員の家族構成や賃金、場合によっては病歴等、重要な個人情報が多く含まれます。
特に最近では、社会保険関係の手続きに個人番号(マイナンバー)が利用されているため、情報の重要性はさらに高くなっています。
社労士事務所の中には、情報セキュリティ対策が不十分の事務所もあるため、契約を締結する前にしっかりと見極めないと、従業員の個人情報を危険に晒すことになります。
セキュリティ対策がとられている社労士事務所かどうか判断する場合、ISMSやプライバシーマーク等のセキュリティに関する第三者機関の認証を得ているかどうかが、大きなポイントになります。
そもそも社労士とは?
最近、ネットやテレビ等でも「社労士」という言葉を目にすることが増えましたが、それでも弁護士や税理士と比べると知名度はかなり下がります。
そのため、社労士との顧問契約を検討している方の中にも、「社労士がどういうものか、よくわからない」という方もいるかと思います。
まず、社労士とは正式名称を「社会保険労務士」といい、社会保険や労働保険に関する法律の専門家のことをいいます。
社労士になるためには、国家資格である社労士資格を取得する必要があり、社労士資格は雇用や労働問題、公的年金分野に関する唯一の国家資格となっています。
社労士に依頼できる主な業務
社労士と顧問契約を結んだ場合、依頼できる主な業務は次の3つです。
- 社会保険や労働保険に関する書類作成および行政機関への申請代行
- 就業規則や賃金台帳など社会保険・労働保険に関する帳簿の作成
- 人事労務管理のコンサルティング業務
特に1と2は、社労士しかできない独占業務とされており、社労士資格を持っていない人が行うと社労士法違反として処罰されます。
これは、社会保険関係の代行業務を、専門知識を持っている社労士に限定することで、手続きをスムーズにするとともに、依頼主である企業が不利益を被らないようにしているのです。
また最近では、上記1~3の他に、企業の「職場環境の構築・改善」や「労使トラブルの防止・労使関係の改善」も社労士が担うようになっています。
社労士と労務管理士との違い
社労士とよく似た資格制度に労務管理士というものがあります。
たまに、違いがよくわからないという方がいますが、大きな違いは誰が認定しているかです。
社会保険労務士が社会保険や労務管理に関する国家資格であるのに対して、労務管理士は一般社団法人の日本人材育成協会と日本経営管理協会が認定している民間資格です。
そもそも、労務管理士や人事・労務に関する知識を身に着けた労働者を増やすという目的で作られた資格制度なので、基本的には企業内で勤務しています。
社労士の独占業務を社労士以外が行った場合、それが労務管理士であっても社労士法違反として処罰される可能性があるので、間違って委託しないよう注意しましょう。
失敗しない社労士選びのポイント
社労士と顧問契約を締結するなら、社労士選びは慎重に行いましょう。
社労士選びに失敗すると、社会保険手続きが遅れて従業員に迷惑がかかったり、場合によっては会社運営にも影響が出る可能性があるからです。
ただ、より良い社労士事務所を選ぶといっても、何を基準にすればよいかわからないという方が多いと思います。
そこで以下では、失敗しない社労士選びのポイントを解説したいと思います。
社労士資格保有者が複数在籍しているか
社労士と顧問契約を締結する場合、社労士が複数人在籍している社労士事務所がおすすめです。
社会保険・労働保険業務はとても範囲が広く、多くの社労士は自分に得意な分野があります。
例えば、「労務管理」を得意としている社労士の場合、社会保険手続きや、補助金・助成金についてあまり詳しくないというケースが多くあります。
そのため、社労士が1人しかいない社労士事務所の場合、会社で発生するさまざまな課題に対して、十分な対応ができない可能性があるのです。
得意分野の異なる複数の社労士事務所と、それぞれ別個に顧問契約を締結するというケースもありますが、窓口が一本化されていないのは、会社にとっても従業員にとっても不便です。
複数の社労士が在籍し、幅広く対応できる事務所と顧問契約を締結するのが、効率的でおすすめです。
セキュリティがしっかりしているか
上記でも説明したとおり、社会保険関係の業務を委託する場合は、従業員の情報を共有する必要があります。
この情報には、従業員の家族構成や賃金など、重要な個人情報が多く含まれます。
特に最近は、社会保険手続きに個人番号(マイナンバー)を使用することが増えていることから、情報の重要性はさらに高くなっています。
このような重要な情報を預けるわけですから、顧問先を選ぶ際、社労士事務所のセキュリティがしっかりしているかどうかは、非常に重要なポイントとなります。
ただ、社労士事務所がどの程度セキュリティ面を重視しているかは、外からほとんどわかりません。
そこで基準となるのが、プライバシーマークやSRPⅡ(社労士事務所個人情報)等の第三者機関による認証を受けているかどうか、という点です。
また、セキュリティに厳しい金融関係企業や保険関係企業などを受託しているかどうかも、重要な判断材料といえます。
BCP対策がとられているか
BCP対策(事業継続計画)とは、「事故や災害などの緊急事態が発生したときに、企業がその損害を最小限度に抑え、事業を継続することができる体制作り」のことをいいます。
日本は「災害大国」とも呼ばれるように、外国に比べて台風、大雨、地震などの自然災害が発生しやすい国です。
また最近では、新型コロナウイルスの感染拡大によって、休業せざるを得ない事業者もありました。
このような緊急事態発生時でも、変わらず安定したサービスを提供できる体制を整えているかどうかは、社労士事務所を選ぶ際の大きなポイントといえます。
例えば、地震の影響で社労士事務所の業務がストップしてしまった場合、その事務所がBCP体制を整えていないと、委託元であるクライアントの社会保険関連の手続きもすべてストップしてしまいます。
その結果、従業員に本来支払われるべき給付金が支払われなかったり、社会保険の加入期間や年金額等に誤りが発生してしまう可能性があるのです。
このような事態が発生しないようにするためにも、BCP対策がとられているかは重視するべきです。
例えば、「全国に複数の拠点があるか」「チーム制がとられていて担当者が不在でも別のメンバーが対応できるようになっているか」「安否システムを導入しているか」などをチェックしましょう。
社内システムと連携できるか
最近では、何らかの人事管理システムやワークフローシステムなどを導入している会社が多いと思います。
社労士と顧問契約を締結するのであれば、こうした社内システムとの連携ができるか、という点もチェックしましょう。
社労士事務所によっては、特定のシステム以外は対応できないケースもあるからです。
それを知らずに顧問契約を締結すると、社内システムとの連携ができず、結果的に業務負担が増えてしまう可能性があります。
また、現在は社内システムを何も入れていない会社であっても、今後事業を続けていく中で導入する可能性があります。
そのため、社労士を選ぶ際は、さまざまな社内システムとの連携が可能かどうか確認しておくとよいでしょう。
クライアント数が多い社労士事務所がおすすめ
社労士と顧問契約を締結するときは、クライアント数の多い社労士事務所の方がおすすめです。
当然、多くのクライアントがいるということは、それだけ良いサービスを提供しているということになりますが、理由はそれだけではありません。
それは、他の社労士事務所と比べて多くのノウハウを持っているからです。
社労士の業務は、法令を知っていれば誰でもできるというわけではなく、実務に関するノウハウをどれだけもっているか、がとても重要です。
例えば、労使トラブルが発生した場合に、どのように従業員と接すればよいかなど、実務の経験がないと問題をより複雑にしてしまう可能性があります。
こうした実務のノウハウは、クライアント数の多い社労士事務所しか持っていないため、顧問先を選ぶ際のポイントになります。
まとめ
社労士と顧問契約を締結する場合のメリットは大きく次の5つがあります。
- 本来の業務(コア業務)に集中できる
- 法改正や補助金・助成金などの最新情報を得られる
- 従業員の問い合わせ対応の効率化
- 手続きミスや遅れを防止
- 業務の効率化につながる
これに対してデメリットとしては、次の3つがあります。
- 費用(顧問料)が発生する
- 配置転換が必要になる可能性
- 個人情報流出のリスク
社労士と顧問契約を締結する場合は、メリットだけでなくデメリットもきちんと理解したうえで、デメリットに見合うだけのメリットがあるのかどうか、慎重に判断しなければなりません。
より良い社労士事務所と顧問契約を締結することができれば、人事や労務管理について、とても心強いパートナーになってくれるでしょう。