2024年、業務委託フリーランスは全業種で労災保険に加入できるようになります
2020年の内閣府の調査によれば、日本の労働人口の約15人に1人が、副業・兼業を含む広義のフリーランスとして働いていると推計されています。
この数字はコロナ禍を経て増加していると思われ、フリーランスの人口が拡大傾向にあることを示唆しています。
同時に、多くの企業が、多様な雇用形態の人材を積極的に活用する動きが広がっています。
フリーランスは、柔軟な働き方を選択できる反面、通常の労働者と異なり、就労中のケガや病気に対する労災保険の補償を受けることができないという課題がありました。
そのため、多様な働き方が促進される今日、フリーランスが安心して活動を続けられる環境整備が喫緊の課題となっています。
このような背景の中、厚生労働省は2023年11月20日の審議会において、業務委託フリーランスが全業種で労災保険に加入できる方針を示しました。
この決定がどのような意味を持つのか、詳細について解説していきます。
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業務委託フリーランスについて
そもそも業務委託フリーランスとは、どのような仕事をする人々を指すのでしょうか。
業務委託フリーランスは、自身の専門性や技能を活かして、他の企業や個人に対して一定の業務を提供し、その業務に対する報酬を得る個人事業主です。
彼らは企業や特定の組織に所属するのではなく、プロジェクトや特定の業務ごとに、個人事業主として企業と対等な立場で業務委託契約や請負契約を締結します。
自らのスケジュールを管理し、複数のクライアントと仕事をすることも可能です。
プロジェクトごとに契約を結び、契約には特定の期間や成果物の提供などが含まれることが一般的です。
業務委託フリーランスは、税金や保険などの経済的な責任は個人事業主が負うことになります。さらに、事業リスクを負う責任と覚悟が必要です。
労災保険とは?
労災保険とは、労働者(雇用されて労働し賃金を支払われる者)が仕事中や通勤中にケガや病気、障害または死亡などをした場合、労働者やその遺族に必要な保険給付を行い、さらに被災労働者の社会復帰を促進するなどの事業を行う制度です。
正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。
労災保険は、労働者を一人でも雇用する事業主に対し、業種の規模に関わらず加入が義務付けられています。
社会保険とは異なり、原則としてその保険料の全額を事業主が負担します。
フリーランスは企業に雇用されている労働者ではないため、通常の労災保険は適用されないこととなります。フリーランスは、後の章にて紹介する“労災保険の特別加入制度”が適用となります。
給付内容
労災保険の給付には「そのほかの給付」も含めて、合計8種類の給付が存在します。
- 療養(補償)給付:労働災害によるケガや病気の治療費や入院費など、治癒するまでの療養費を給付
- 休業(補償)給付:労働災害により労働することが出来ず、賃金を得られない場合の給付
- 障害(補償)給付:労働災害によるケガや病気が治癒した後に、後遺障害が残った場合の給付
- 遺族(補償)給付:労働災害で労働者が亡くなった場合の遺族への給付
- 葬祭料・葬祭給付:労働災害で亡くなった労働者の葬儀費用を補てんするための給付
- 傷病(補償)等給付:労働災害によるケガや病気が、事故から1年6ヵ月経っても治癒しない場合や、傷病による障害の程度が傷病等級第1級~第3級に該当する場合に給付
- 介護(補償)給付:特に障害の程度が重い障害等級第1級の場合、または第2級の精神・神経障害や胸腹部臓器の障害があり、現に介護を受けているときに給付
- そのほかの給付・・・二次健康診断等給付;事業主が行った直近の定期健康診断などにおいて、血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、BMI(肥満度)の測定のすべての検査において異常が見つかりながら、脳血管疾患または心臓疾患の症状がない場合に給付
労災保険の特別加入制度とは?
労災保険の特別加入制度は、労働者(雇用されて労働し賃金を支払われる者)以外の方が一定の要件を満たす場合に、任意で加入することで、仕事中や通勤中のケガや病気などをした際に補償を受けられる制度です。
通常、労災保険は日本国内で労働者として事業主に雇用され賃金を得る人が対象ですが、労働者ではない人々の中には、業務内容や労働災害の発生状況に基づき、労働者と同様の保護が適切であると判断される職業があります。
このような場合、労災保険の任意加入が認められます。
労災保険の特別加入制度の対象者
特別加入できる対象者の範囲は、以下の4種に大別されます。
今回の記事における“業務委託フリーランス”については、2や3に該当する方が多いのではないかと思われます。
どのような方が特別加入制度の対象者となるのか、加入方法も併せて確認しておきましょう。
- 中小事業主等の特別加入
- 一人親方等の特別加入
- 特定作業従事者の特別加入
- 海外派遣者の特別加入
①中小事業主等の特別加入
中小事業主等とは、以下の2つの条件を満たす場合を指します。
a.特定数以下の労働者を常時使用する事業主・・・金融業・保険業・不動産業・小売業は50人以下、卸売業・サービス業は100人以下、その他の業種は300人以下の場合。
b.労働者以外で、上記aの事業主の事業に従事している人・・・事業主の家族従事者や、中小事業主が法人や団体である場合の代表者以外の役員などが該当します。
また、労働者を通年で雇用していなくても、1年間に100日以上労働者を使用している場合、常時労働者を使用しているとみなされますので、この点に留意する必要があります。
特別加入の要件は、『雇用する労働者について、労災保険の保険関係が成立していること』『労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること』の2つを満たす必要があります。
特別加入の申請手続きは、労働保険事務組合を通じて、所轄の労働基準監督署長に「特別加入申請書(中小事業主等)」を提出します。最終的には都道府県労働局長が受理し、承認されることになります。
②一人親方等の特別加入
常態として労働者を使用しないで、次のa~kの事業を行う一人親方、その他の自営業者およびその事業に従事する人が、特別加入することができます。
a. 自動車を使用した旅客や貨物の運送事業や、原動機付自転車や自転車を使った貨物運送事業(例:個人タクシーや個人貨物運送業者、仲介業者を利用した飲食物のデリバリーサービス業者など)
b. 土木、建築、およびその他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊、解体、またはその準備などを行う事業(例:大工、左官、とび職人など)
c.漁船による水産動植物の採捕の事業(gに該当する事業を除きます。)
d.林業の事業
e.医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)の事業
f.再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
g.船員法第1条に規定する船員が行う事業
h.柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業
i.改正高年齢者雇用安定法第10条の2第2項に規定する創業支援等措置に基づき、同項第1号に規定する委託契約その他の契約に基づいて高年齢者が新たに開始する事業または同項第2号に規定する社会貢献事業に係る委託契約その他の契約に基づいて高年齢者が行う事業
j.あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律に基づくあん摩マッサージ指圧師、はり師またはきゆう師が行う事業
k.歯科技工士法第2条に規定する歯科技工士が行う事業
特別加入の要件は、一人親方等の団体(特別加入団体)の構成員であることです。
一人親方等の特別加入については、一人親方等の団体(特別加入団体)を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険の適用を行います。
そのため、一人親方等で働くご本人が加入したい団体へ申し込み手続きを行います。
その手続きを受け、特別加入団体が所轄の労働基準監督署に「特別加入申請書」または「特別加入に関する変更届」を提出します。
最終的には都道府県労働局長が受理し、承認されることになります。
なお、新たに特別加入団体をつくって申請することも可能です。詳しくは、厚生労働省HPにある「特別加入制度のしおり」をご確認ください。
③特定作業従事者の特別加入
特定作業従事者として特別加入ができるのは、以下のいずれかに該当する方です。
a.特定農作業従事者
b.指定農業機械作業従事者
c.国または地方公共団体が実施する訓練従事者(職場適応訓練従事者、事業主団体等委託訓練従事者)
d.家内労働者及びその補助者
e.労働組合等の一人専従役員
f.介護作業従事者及び家事支援従事者
g.芸能関係作業従事者
h.アニメーション制作作業従事者
i. ITフリーランス
特別加入の要件は、特定作業従事者の団体(特別加入団体)の構成員であることです。
特定作業従事者の特別加入については、特定作業従事者の団体(特別加入団体)を事業主、特定作業従事者を労働者とみなして労災保険の適用を行います。
そのため、特定作業従事者で働くご本人が加入したい団体へ申し込み手続きを行います。
その手続きを受け、特別加入団体が所轄の労働基準監督署に「特別加入申請書」または「特別加入に関する変更届」を提出します。
最終的には都道府県労働局長が受理し、承認されることになります。
なお、新たに特別加入団体をつくって申請することも可能です。
詳しくは、厚生労働省HPにある「特別加入制度のしおり」をご確認ください。
④海外派遣者の特別加入
海外で働く際、通常の労災保険は適用されません。そこで、国内の事業主から海外の事業に労働者・事業主等として派遣される労働者は、特別に労災保険に加入することが認められています。
その場合、派遣元の団体や事業主が、派遣する人々の特別加入手続きを行います。
特別加入の要件は、派遣元の団体または事業主が、日本国内において実施している事業(有期事業を除く)について、労災保険の保険関係が成立していることです。
特別加入の申請手続きは、派遣元の団体または事業主が、所轄の労働基準監督署長に「特別加入申請書(海外派遣者)」を提出します。
最終的には都道府県労働局長が受理し、承認されることになります。
参考:厚生労働省HP 「労災保険への特別加入」 労災保険への特別加入 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
企業が業務委託フリーランスを利用する際の注意点
企業が業務委託フリーランスを利用する際、以下のポイントに注意しましょう。
1.偽装請負に注意
フリーランスとの業務委託契約において、形式上は業務委託契約でも、実態が労働者派遣契約や雇用契約になっていないか留意が必要です。
偽装請負は違法であり、発覚した場合は罰金や社名の公開、厚生労働大臣からの業務改善命令などの罰則が科せられる可能性があります。
2.指揮命令および勤怠管理の禁止
業務委託契約においては、雇用側と労働者ではなく、委託側と受注側という関係性が成り立ちます。
そもそも指揮命令とは、雇用側が労働者に対して業務時間や作業場所、作業の流れなどを指示監督する権利のため、企業からフリーランスに対する指揮命令や勤怠管理は行えません。
これらの行為は偽装請負とみなされる可能性がありますので、慎重な取り扱いが必要です。
3.契約形態と実態の齟齬に注意
契約形態が労働者派遣契約や雇用契約ではなくても、働き方の実態が労働者と変わらない場合、労働者として扱われ、法令が適用されます。
その場合、委託している企業が労災保険の加入手続きを行う必要があります。
労働者か否かの判断についての相談は、管轄の労働基準監督署に行いましょう。
まとめ
今年(2024年)から業務委託フリーランスが、全業種で労災保険に加入可能となり、これにより多様な働き方が一層拡大し、今まで以上に求められる時代へと進化するものと思われます。
企業は今後、フリーランスを都合のいい働き手としてではなく、対等な立場で仕事を進めることが要求されるでしょう。
同時に、労災保険の特別加入が可能となったことで、フリーランス側はより安全・安心な環境が整いました。
これにより、会社員とフリーランスの保護体制に生じていた格差は、少しずつ緩和されています。
企業とフリーランスの双方が契約内容や報酬額を明確にし、円滑な業務遂行ができる環境整備が重要です。
自社でフリーランスと業務委託契約を結んでいる場合は、契約内容を再確認し、働き方の実態をしっかり把握しておくことが大切です。